あるかみさまがおりました。背の高い、力の強いかみさまでした。
かみさまというものは、それぞれ役割を持っています。そのかみさまの役割は、「こわすこと」でした。
つくるかみさまがいれば、こわすかみさまも必要です。
つくられたものはこわされ、こわされてはつくられるのです。
そうして新しいものが生まれていくというのが、その世界の仕組みでした。
けれども、こわすかみさまは自分の役割がきらいでした。
こわすことは悲しまれることが多かったからです。
色々なものをこわす度に、かみさまは恨まれました。
「こわすことしかできない、みんなを悲しませることしかできない、こんな役割はいやだ」
そう嘆きながら、かみさまは自分の手を見ます。
「こわすことしかできない、みんなを悲しませることしかできない、こんな手はいらない」
かみさまは自分の手の指を、一本残らず切り落としました。
自分自身をこわしてしまってから、かみさまは思いました。
「本当は自分だって、何かをつくりたかった」
だけどこんな手では、つくることもこわすこともできません。
かみさまは指のない手で、足元に落ちている十本の欠片を拾い上げます。
「自分にはできなかったけれど、この指たちはどうだろうか」
かみさまはふと考え、指を放り投げました。
指は色々な世界の、色々な時間に散らばりました。
散らばった指たちはかみさまによく似た姿になり、色々な世界の色々な時間を生きました。
一つは成長し、ときにはものを、ときには人をこわしながら、大きな土地を手に入れました。
彼はそこに町をつくりました。町には悲しみと喜びの両方がありました。
一つは育てられ、たくさんの人をこわし、悲しみを生みながら、大きな国をつくりました。
自らも心を痛めながらつくった国は、人々を苦しめもしましたし、助けもしました。
他の指だった人たちも、こわし、つくり。つくり、こわしました。
人々は自分の役割をきらいもしましたが、すきにもなりました。
かみさまの十本の指から生まれた人々は、かみさまによく似ていて、また、かみさまが仕方ないと諦めていた希望を、その人生で得ました。
やがてかみさまが彼らの希望に気づいたとき、丸くなってしまったはずの手には再び指が生え揃っていました。
かみさまは、この指で何をしようか考えることにしました。
こわすという役割以外にも、何かできることに気がついたのですから。
現にかみさまは、一度人間をつくって世に送り出すことができたのです。
色々なものをこわしながらもつくっていくような、かみさまによく似た人間を。