そうそう、家族といえばだね。……いやいや、人の話なんかしないよ。正真正銘うちの話だよ。
うちは両親と、自分を入れた兄弟四人の六人家族なんだ。多い? それは言われ慣れたよ。
でもね、最近もっといるんじゃないかって思い始めたんだ。
まあまあ、聞いてくれよ。これくらいしか話のネタを持ってきていないんだ。
あのね、九人。三人足して、九人なの。
三人が何者かというとね、一人ずつ紹介するよ。
まず、子ども。ちっちゃい子どもなんだ。小学校低学年くらいかな。
それが、台所で洗いものをしていると、目の前をすうっと通るわけ。
台所と居間の間に低い仕切りがあるんだけどね。そこから、右から左へ横切っていく頭だけが見えるの。
最初はうちの末っ子かと思ったんだけど、違ったね。
次の瞬間、末っ子は自分の部屋からひょっこり姿を現したのさ。
それによく考えてみれば、末っ子って言ったって、もう高校受験の準備を始めるような年頃なんだ。そんなに小さいわけがなかったんだよ。
それから、男。これはやたらと背の高い男でね、180cmはゆうに超えてるんじゃないかな。
こいつが出たのは、洗面所さ。正確には洗面所へ入る廊下のあたりだね。
鏡に向かって歯を磨いていた自分の後ろを通っていったんだ。鏡に通るのが映ったんだよ。
廊下の突き当たり、ようするに壁だね。そこから出てきたように見えた。
ワイシャツを着て、ネクタイをきちんとしめた、胸の部分が見えたんだ。
うちにそんなでかい男なんていやしない。うちの男連中は揃いも揃って日本人の平均さ。
最後の一人は女だ。こいつにはまだ、遭遇したことがない。自分はね。
これを見たのは末っ子さ。部屋を覗いていたんだと。
髪の長い女だったそうだよ。ついでにいえば、うちの女はみんなショートかショートボブくらいなもんでね。だらりと垂れ下がるような長い髪の女が、家ん中にいるはずはないんだ。
洗面所の方からどたばた音が聞こえることは度々あったんだけどね、そういうのを見ることは少ない。少ないけれど、見てしまった。
あの男と女と子ども、家族なのかねえ。こんな狭い家に二家族も住んでいるのかと、ちょいと呆れたもんだ。
こわかあないさ。実害があるわけでないし。寧ろ面白いね、九人家族。
……おや、そろそろ帰る時間だね。迎えが来たよ。そいじゃね。
「あれ、帰ったん?」
「うん、迎え頼んでたみたい。親戚かな」
「何で親戚?」
「うちあの子の家行ったことあるけど、あの人たち見たことないもん」
「でっかい人と、奥さんっぽい人ね。車にいたの、子どもかな」
「……奥さん、髪長かった?」
「うん。何、知ってるの?」
「いや……さっき、あんたらが合流する前、ちょっと怖い話してて」