1組の青野ミアキと2組の青野ショウコは双子の姉妹だ。
僕は1組の生徒なので、よくミアキと会話する。
6
月のじめっとした教室で、彼女は僕に声をかけた。
「ねぇ」
透明感のある響きが、僕の耳に入ってくる。
汗と室内の湿気で肌に張り付くシャツを鬱陶しく思いながら、僕は適当な返事をする。
「何」
「ショウコがあんたを好きみたい」
「そう」
物好きだなという感想を抱きつつ、僕はまた文庫本に目を落とそうとした。
ミアキはそれを邪魔するように、白い手のひらをページの上に乗せる。話はまだ終わっていない、ということだろう。
「ショウコがあんたに手紙を書いた」
彼女は空いている方の手で、机から封筒を取り出した。
差し出されたそれを、僕はその場で開封する。
便箋6枚に渡って綴られた、ショウコの僕の思いを目で追う。
いや、それは純粋な思いというよりは、ショウコの強い願望で、僕には少し重すぎた。
僕の全身を余すところなく食いつくし、骨まで舐めて、そのあと保管されそうなくらい。
「どう?」
ミアキが訊ねる。
「拒絶したい」
僕が答える。
ミアキは満足そうに頷いた。
「そう、あんたじゃ駄目なの。私たちは運命の人が決まってるんだから」
彼女が「運命の人」と呼ぶ人物はたった一人。僕はそれを何度も、自慢げに聞かされてきた。
「それは例の、眼球をあげた人?」
「そう」
ミアキとショウコは片目がない。ミアキは右目を、ショウコは左目を、それぞれ眼帯で覆っている。
昔、二人が住む村に来た男の人にあげたのだという。
「あれからまだ6年しか経ってないのに、ショウコは裏切ろうとした。酷いよ」
ミアキのその人に対する執着と、ショウコも自分と同じ考えであるべきだという持論も、充分異常だと僕は思う。
窓から風が入ってきた。
6
月の、湿気の多い、気持ちの悪い風だった。