幼少期より、私の周りには女の子ばかりという状況が当たり前になっていた。女子校の幼稚舎に入れられ、そのままエスカレーター式に初等部、中等部、高等部へと進んだ。平日の、一日の大半は同性と過ごす日々だ。

家に帰れば祖父と父、そして兄がいたので、異性と全く交流がないわけではない。けれども所詮は血縁者なので、「好きな男の子がいてどうのこうの」という話題は、私には縁遠いものだったのは確かだ。

それでも同級生の中には、共学校の男子と恋愛をしている子もちらほらとでてきて、私たちはいつまでもこの女の園の中に留まっているわけではないのだと思い知らされる。特に禁止されているわけではなく、しかしながら「淑女らしい振る舞い」を求められている女子校の学生には、ほんの少しのスリルを味わえる。そんな恋愛というものは、同じ性別と制服を持ったこの学校の生徒にとって、一種のスパイスのようなものだったのかもしれない。

私のように家族以外の異性との接点がない者は、あるいはそうでなくとも、その刺激を身近に求めることがある。いわゆる女の子同士の恋愛というものも、私はいくつか見てきた。自分がその対象になったこともあった。

けれどもまさか、私自身が誰かに恋をするだなんて、あの時までは全く予想もしていなかった。

 

「桜、今度の日曜は暇か?」

ある日、家に帰り着くなり、年子の兄がそう尋ねてきた。

高校一年生の春だった。中等部から生徒会に関わってきたことで、高等部でも役員をすることが決まって、ほんの少しだけ憂鬱になっていた夕方だった。

公立の共学校に通う兄は、暢気に飼い犬と遊びながら、疲れた私を出迎えた。

「暇だけど、それが何?」

学校では隠していた不機嫌を前面に押し出して私が尋ね返すと、それでも兄は嫌な顔などせずに、むしろ満面の笑みを浮かべて言った。

「後輩と一緒に、映画を観に行くんだ。桜も一緒に行かないか」

「勝手に行けばいいじゃない。なんで知らない人と一緒に映画なんて……」

「桜が観たいって言ってたヤツだし、和人も一緒。それと、後輩のうち一人が女の子でさ。もう一人くらい女子がほしいかなって」

和人さんの名前を出されると弱い。彼は兄の親友であり、私が家族以外で唯一接点のある男子でもある。幼い頃から世話になっていて、私のもう一人の兄のような存在だ。兄たちと出かけるのは、実はそう嫌いではない。

それに、後輩の女の子というのも気になる。兄は昔から人によく好かれ、数多の恋心を向けられてきたはずなのだが、女の子と付き合ったという話は一度も聞いたことがない。その兄が休日を一緒に過ごそうとする異性、私にとっては同性のその子は、いったいどんな人なのだろう。

「後輩って、私と同い年?」

「そう。知り合ったのは少し前なんだけど、これがまた面白い奴らなんだ。桜と亜子、絶対に気が合うと思うんだけどな」

アコ――それが女の子の名前か。私と気が合いそうな女の子というけれど、兄は私自身のことをどう捉えているのだろう。もしも私の通う学校に多く存在する、お淑やかで大人しく清純な、あるいはそんな風を装っているような人物ならば、私とは合わないだろう。

今日も告げられた言葉に、私は辟易しているのだ。

「清楚で美しい立ち振る舞いの野下さんなら、きっとみんなのお手本になってくれると思うわ」

「お淑やかでしっかりものの野下さんに憧れてるんです」

みんなが求める理想の私を維持し続けるのは疲れる。初対面の人間と、休日でもその仮面を維持しなければならないのはつらい。

ああ、でも、映画と兄と和人さんには抗えず、兄の後輩とやらが気になるのも事実なのだ。私は結局、兄の誘いに応じることにした。

 

そうして迎えた日曜日、私は兄と、家まで迎えに来てくれた和人さんとともに、駅に向かっていた。この町の小さな映画館では、最新の話題作は上映されないのだ。だから大きな映画館のある隣町まで出かけて行かなければならない。

「桜ちゃん、新しいブラウス着てるね。良く似合ってるよ」

「ありがとう、和人さん。お兄ちゃんが何も言ってくれないから、ちょうど拗ねてたところだったの」

「何着ても可愛いんだから良いだろ。さすが俺の妹」

いつも通りの他愛もない話をしながら、私たちは歩く。後輩という人たちとは、駅で待ち合わせているそうだ。ここからは少し離れた、川沿いの地域に住む人たちらしい。

この町の中心にある駅はさほど大きくはない。だから捜す姿は、すぐに見つけられるはずなのだ。けれども兄たちはしばらくきょろきょろしていた。

「あれー……おかしいな、まだ来てない」

「そろそろ列車来るよ。乗り遅れたら今日は諦めるしか……」

後輩という人たちは、どうやら時間にルーズらしい。会う前から印象の良くない人たちだ。今日を逃したら、次のチャンスは一週間後だ。映画、楽しみにしてたのに。

私が呆れて溜息をつきかけたときだった。

「ごめんなさーい! お待たせしましたー!」

誰もが振り返るくらいに、良く通る声。こちらに手を振りながら走ってきたのは、金色の髪の美少女。思わず目を見開いた私の耳に、兄たちのホッとしたような言葉が入ってくる。

「良かった、間に合ったな」

「おはよう、亜子ちゃん。遅れたのは大助のせいかな?」

「その通りです。わたしが迎えに行ったら、まだ寝ぼけてました」

近くで見ると、睫毛が長い。肌は白くて、きめが細かい。瞳はグレーが濃くて少し青っぽい。日本人らしくないけれど、外国の子なのだろうか。それにしても流暢な日本語だ。ごちゃごちゃと考えを巡らせながら彼女に見惚れていた私の肩を、不意に兄が叩いた。

「まず紹介しなきゃな。俺の妹、桜だ。北市女学院高等部の一年生」

「あ、野下桜です。どうぞよろしく……」

反射的にそれだけ言った私に、目の前の美少女は、幼少時代に憧れたお伽噺のお姫様のような美しい微笑みを見せた。

「皆倉亜子です。よろしくね、桜ちゃん」

少し背が低い彼女が、私を見上げるようにする仕草が可愛らしい。こんな子がこの町にいたなんて、普段は箱庭のような場所で生活している私は知らなかった。町を歩いていれば、絶対に目立つはずなのに。

私が彼女を、目で追わないはずはないのに。

挨拶もそこそこに、私たちは急いで切符を買って、やってきた列車に乗り込んだ。兄が和人さんと男子の後輩と喋りはじめたので、彼女は私に話しかけてくる。

「桜ちゃんの話は、流さんから聞いてたよ。北市女ですっごく優秀だって」

「そんなことない……。あの、私は兄から何も聞いてないのだけれど、皆倉さんはどうして兄と知り合ったの?」

「亜子って呼んでよ。どうしてっていうか、流さんがわたしたちを知ってたんだよね。わたしは見た目こんなだし、大助はあんまり良くない意味で有名だから、知っててもおかしくないんだけど」

大助というのは、彼女と一緒に来た男子の後輩のことらしい。彼のことも紹介があったはずだけれど、私は亜子ちゃんに気をとられていて、ほとんど覚えていなかった。

「その髪、地毛なの?」

「そうだよ。うちのお母さんがドイツの人なんだ」

容姿が日本人離れしているのはそういうことか。納得したところで、私は亜子ちゃんの服装に気が付いた。着こなしが違うのですぐにはわからなかったけれど、彼女の着ているブラウスは、私が今日身につけているものと同じだった。

「……服。同じね」

「思いがけず桜ちゃんとおそろいだね。わたし、ここの服好きなんだ」

「私も好き。シンプルで何にでも合わせやすいから」

「だよね。わたしたち、気が合いそう」

兄の見立ては間違っていなかった。間違っていてほしくなかった。亜子ちゃんと出会えたことが、こうして話をしていることが、とても嬉しい。

隣町の駅までの時間を、私は彼女を知ることに費やした。誕生日に、血液型、得意な科目。話題が尽きることはない。私がどんなことを訊いても亜子ちゃんは笑って返してくれるし、私も彼女の質問には全て正直に答えた。

「この短時間で、随分仲良くなったな」

「女の子同士、楽しそうだったね」

目的の駅に到着した頃、兄たちがそう言うくらいには、私たちは親しくなっていた。そのあと一緒に観た映画も、あとで感想を言い合って盛り上がった。亜子ちゃんとそうしていられることが楽しい。同じ学校の子たちとのやりとりとはどこか違う。

そもそも学校での私は、こんなに大笑いしながら話したりはしないのだ。周囲が求める理想の姿であり続けようとして、いつも背筋をぴんと伸ばして立っていた。

亜子ちゃんはその私を知らない。知らないから、自然な私を見せられる。彼女と話しているのは、とても気が楽だった。

「亜子が女子とこんな楽しそうに話してるの、珍しいんだぜ」

大助君がそう言うということは、彼女にとっても私は特別なのかもしれないと、自惚れてしまう。お兄ちゃんと和人さんのように、私たちは親友になれるだろうか。

ううん、もっと、近く。彼女の傍にいて、彼女に触れていたい。そう思うのは、おかしいだろうか。

 

「……おかしいでしょうよ」

地元の駅で亜子ちゃんたちと別れ、帰宅した私は、携帯電話に登録された亜子ちゃんのメールアドレスを見ながら呟いた。

今日一日は、まるで魔法がかかったかのようだった。亜子ちゃんを見た瞬間から、何か不思議な力が働いていたに違いない。彼女といるときの私は、ただひたすらに嬉しくて、楽しくて、ふわふわしていた。

「またね」と言った彼女の声が、今も耳に残っている。彼女の笑顔が、頭に焼き付いて離れない。想うほどに胸がどきどきして、携帯電話を握りしめる手が震える。これじゃまるで、お話の世界で見たような、透明で綺麗な恋心。

そうでないにしても、私が彼女の虜になってしまったことは、間違いなさそうだ。

「桜、楽しかったか? 亜子とずっと喋ってたよな」

兄がお茶を淹れて持ってきてくれた。私はカップを受け取って、頷いた。

「お兄ちゃん、ありがとう。すごく楽しかった」

「あんなに笑ってる桜、久しぶりに見たもんな。毎日肩肘張ってたから、他校の友達でもできればいい息抜きになるかもしれないと思ってたけど、当たりだったか」

「大当たりよ。さすがね、お兄ちゃん」

けれども、私がここまで彼女に惹かれるなんて、予測できたかしら。

「お兄ちゃん、また遊びに行きたい」

「今度は桜が亜子を誘ったらどうだ? 趣味とか似てるんだろ」

「……うん」

また会いたい。でも、冷静に会えるだろうか。ううん、冷静じゃなくてもいいのか。亜子ちゃんなら、どんな私を見せてもきっと大丈夫だ。

でも、触れてしまいそうになる衝動を抑えられるかどうかは、重要な問題だと思う。私にもそう思う日が訪れるなんて、今日まで思ってもみなかった。

 

亜子ちゃんと出会った衝撃に比べたら、日々の学校生活なんて退屈なものだった。優等生のふりは相変わらず好評だけれど、放課後には酷く疲れてしまう。

やっと帰れる、と思えば職員室に呼び出されて用事を頼まれたり、それが終われば中等部の後輩に呼ばれて悩み事を相談されたりと、忙しい一日だった。

ようやく広い学校の敷地内から抜け出してから、そっと携帯電話をとりだした。この春買ってもらったばかりの、白くてつやつやした小さなそれを開いて、昨日の夜に届いた一通のメールを見る。

[今日は楽しかったね! また今度、御仁屋でお茶でもしようよ。]

シンプルなメールだけれど、その一言が私の心につかえていた重圧を取り去ってくれる。亜子ちゃんが私にくれた言葉があるというだけで、私の抱えていた疲れが溶けて消えていく。にやけてしまうのを堪えながら家に帰ると、兄が「おかえり」と迎えてくれた。

「今日は機嫌良さそうだな。良いことでもあったか」

「そんなのないわよ。昨日のことを思い出してたの」

「よほど楽しかったんだな。亜子も、桜とまた遊びに行きたいって言ってた」

その言葉を、亜子ちゃんの声で、顔を見て直接聞きたい。兄は彼女と同じ学校だからほぼ毎日会えるけれど、私はそうではないのだ。女子校という箱庭の中で、優等生を演じながら、彼女と会える日を待っている。

今日ほど兄が羨ましいと思ったことはない。何の制約もなく彼女と会えるなんて、できるものなら代わってほしいくらいだ。

「お兄ちゃん、私の代わりに女子校通いたくない?」

「俺は通えないだろ。あと頭の出来が違う。俺は桜ほど頭良くないからな」

庭に出て飼い犬をかまい始めた兄を見ながら、私は縁側で飼い猫を撫でる。もしも私が共学校に通っていたなら。もしも私が男の子だったなら。もっと亜子ちゃんに近づくことができただろうか。そんなことを考えながら。

ううん、私が男の子だったら、きっとあんなに話は弾まなかった。私が彼女と同じ学校に通っていたとしても、あんなに楽しくお喋りができるという自信はない。

もう一度彼女と素晴らしい時間を過ごしたいと思うなら、私は自分で動かなければ。

緊張しながら、手にした携帯電話のキーをぽちぽちと押す。期待と不安の入り混じった気持ちが、手に汗を滲ませる。どうか、どうか、彼女の週末にまだ予定が入っていませんようにと祈る。ありったけの思いを込めて、私はメールを送信した。

 

土曜日、私は飼い猫に見送られて、家を出た。向かう先は商店街の端にある和菓子屋だ。和菓子屋といえども、喫茶スペースで甘味を楽しめるようなつくりになっていて、メニューも豊富。この町の学生たちが集まる場所となっている……らしい。私はあまり行ったことがないので、よくわからない。たしかにあの店のおまんじゅうは美味しいけれど。

御仁屋というその店を選んだのは、亜子ちゃんからのメールに名前が挙がっていたからだ。彼女は以前から通っていたようだけれど、私にはあまり馴染みがない。学校帰りに寄る生徒は周りにもいたが、私の放課後は生徒会活動や先生の手伝いで忙しく、寄り道や買い食いなどをしている暇はなかった。休みの日は母の買い物に付き合ったり、そのついでに自分の服や気に入った小物を買ったりして過ごすか、疲れて家に引きこもっている。

こんなふうに誰かと待ち合わせて外に出るという機会自体が、私には貴重なものなのだ。その誰かが亜子ちゃんであるということは、とても幸せなことだと思う。ここが外ではなく自室で、防音設備が整っていたのなら、飛び跳ね叫んで喜びを表現していただろう。

御仁屋に到着すると、亜子ちゃんはもう席をとって待っていてくれた。こっちに気づいて、小さく手を振ってくれるその仕草が可愛い。飛んでいって抱きしめたくなる衝動を抑えて、私は彼女の正面に座った。

「待たせちゃった?」

「ううん、全然。そもそも待ち合わせの時間、十分後だし」

映画を観に行った時は、本当に大助君が原因で遅刻したらしい。亜子ちゃんはもともとしっかりした人なのだろう。

初めてここでお茶をする私に、亜子ちゃんはメニューの説明をしてくれた。抹茶パフェが好きらしく、熱心に語ってくれたので、「和菓子屋なのにパフェ?」と思っていた私もついつい同じものを選んでしまった。

頼んだパフェが来るまでの間、私たちはお喋りを楽しんだ。北市女学院の話を聞かせてほしいと亜子ちゃんが言うので、「これといって面白いことはないけれど」と但し置いてから、校内の様子や私の学校生活のことを話した。つまらない話だったと思うのだけれど、亜子ちゃんは真剣に聞いてくれていた。

そうしているうちに、抹茶パフェが運ばれてくる。二人でいただきますを言ってから、同時にスプーンを手に取り、一匙を口に運んだ。亜子ちゃんが好きなものというだけあって、美味しかった。和菓子屋なのに意外だ。

「こういうのってめったに食べないけれど、美味しいのね。ここはおまんじゅうが美味しいお店だと思ってた」

「おまんじゅうも美味しいよね。おにまんじゅうとか大好き。大助と来るときはお茶とおまんじゅうだけでしばらく居たりするし」

しばし抹茶パフェに感動して、それから話はまた学校生活へと戻っていった。今度は亜子ちゃんが話す番だ。

「礼陣高校は部活動が盛んよね」

「うん。わたしは部活やってないけど、だいたいの人が何かしらはやってるかな」

「亜子ちゃんはやらないの?」

「うーん、まあ。どこに入っても、この髪のせいで変に注目浴びるからね。それに部活やってなくても、今は流さんたちのおかげで生徒会の手伝いとかできるし、大助もバイトで早く帰ったりしてるからいいかなって」

亜子ちゃんの高校生活は充実しているように聞こえた。お兄ちゃんや和人さんとのやりとりはもちろん、大助君と一緒に過ごしている日々が、特に楽しそうだった。

彼女の口から、何度大助君の名前を聞いただろう。異性の名前がこんなに出てくるのは、共学校の生徒だからだろうか。

「亜子ちゃん、大助君の話ばっかりね。幼馴染って、何歳のときから一緒なの?」

「え、そんなに大助のこと話してた? 五歳のときに、あいつが家族と引っ越してきてからだから……もう十年以上の付き合いになるかな」

それからあとは、大助君とその家族の話ばかりだった。幼い頃からの交流が、嬉しかったこともつらかったことも、丁寧に語られる。先日は亜子ちゃんに夢中で気にも留めていなかったけれど、彼は亜子ちゃんにとって、きっと特別な人だった。

私なんかじゃ、とても敵わないほどに。

私なんかじゃ、亜子ちゃんの特別にはなれない。

笑顔で話す彼女に、私は笑顔で応えられているだろうか。彼女がこんなに幸せそうなのに、私はどうして苦しいんだろう。胸に何かがつかえてとれない。

なんて衝撃、なんて早さ。私が誰かを想い、破れるまで、その時間の何と短いことか。

いいな、こんなに想ってもらえて。彼女と一緒に過ごした時間の長さも、そこに込められた気持ちも、私と大助君では比べ物にならない。

でも、だけど、彼女のこの気持ちを、大助君はまだ知らないという。これを知っているのは、彼ではなく私だ。

「桜ちゃんには何でも話せちゃうな。大助のことだって、こんなにたくさん話したのは初めて」

そういう意味では、私だって、彼女の特別になれる。

「私で良ければ、何でも聞くよ」

どうせかなわないなら、私は私のやり方で、亜子ちゃんの特別を目指す。

 

以来、亜子ちゃんとは頻繁に会うようになった。互いに都合がつけば、御仁屋や他の喫茶店で待ち合わせたり、隣町へ買い物に行ったりしている。

そのたびに、私は彼女の語る話を聞き、彼女の表情を近くで見ている。その変化が、とても愛しい。

誰かのことをこんなに想うようになるなんて、亜子ちゃんに会うまでは予想もしていなかった。たぶんこれは恋か、それに限りなく近いものなのだろう。けっして彼女に届くことはなく、届かないようにしているのだけれど、私はこの気持ちを偽らない。

彼女の前では、私は本当の自分になれる。彼女は私にとって特別であり、私は彼女にとって特別でありたい。

この気持ちは、一時の刺激にあらず。いつだって私は、彼女の味方でありたいのだ。