寒い日の屋外授業は、誰もがジャージをしっかり着込んでいる。体をなんとかして温めようと動く者もあれば、その場で震えている者もある。
そんな日に、体育教師の独断により、男子はサッカーをすることになった。話し合いの上でチームを決めて、あとは自由にやれと、彼は簡単に言い放ったのだった。それがどれだけ生徒間に波乱を呼ぶか、教師には分からない。なにしろ、体育以外でこの学年に接することはあまりなかったのだから。
ともかく、それほど時間をとらない話し合いの末、ジャンケンでチーム決めをすることになった。同じものを出したもの同士で組むという、どこにでもあるようなスタイルだ。
そうして偶然出来上がったチームは、体力差を考えると、一見バランスがとれているようだった。だが、約二名は不満そうな顔をしている。
同じチームになった彼らは、クラスも部活も一緒だが、とにかく最初から互いが気に食わなかった。傍目に見れば「喧嘩するほど仲が良い」を地でいく二人なのだが、本人たちは納得していない。顔を合わせると毒づくのは日常茶飯事だ。
「なんで俺が黒哉と同じチームなんだよ。連さんと組みたかったのに」
「それはこっちの台詞だ。海となんか組めるかよ」
名前を呼び合いながらの拒否が飛ぶ。海と黒哉は、そうして相手を睨みながらも、同じ色のビブスを着用していた。しかも着るタイミングはバッチリ同時だ。
それを見て、彼らとは別の色のビブスを着ている連とサトは同時に笑った。
「なんだかんだ言いつつ、あの二人は気が合うよな」
「里の言う通りだ。剣道でもいいライバルで、互いを高めあっている。俺はあの二人に組まれると驚異だと思う」
「森谷君に同意。……こんなこと海たちに聞かれたら、ものすごい勢いで否定するんだろうけどさ」
普段の海と黒哉は、彼ら自身「なりゆき」と表現しているが、たしかに行動をともにすることが多かった。
そもそも黒哉がアルバイトや他の部活動をしながらも剣道を続けているのだって、海の存在が理由の一つにはなっていた。こいつにだけは負けられない、と思ったのだ。
そして海のほうも、自分と同等の力を持っている黒哉には負けるわけにはいかないと、日夜稽古に励んでいる。互いに意識していることは、誰の目から見ても明白だった。
さて実際のところ、連の見立ては正解だった。ライバルに無様なところは見せまいと、海も黒哉も積極的に勝ちに来た。連にすら手加減はしない。サトになら尚更だ。必要であれば海は黒哉に的確なパスを出し、黒哉は海に得点を委ねる。とても素晴らしいコンビネーションを見せつけてきた。
結果、海と黒哉のチームは勝ち、連とサトのチームは負けた。バランスの良いチーム同士での試合は、よりチームワークが良かった方に軍配があがったのだった。
「進道、日暮へのパス良かったぞ」
「空いてるところが黒哉のところだったんだよ」
サトが褒めると、海は用意していたかのような言い訳をした。
「海がシュート決めやすいように誘導してただろ。黒哉はやっぱり、海を信頼してるんだな」
「そう見えたか? 気のせいじゃねーの」
連の言葉に、黒哉は素っ気なく返す。
だが、彼らの態度が照れ隠しであることを、友人たちはよくわかっていた。二人とも素直ではないのだ。
「男子のサッカー、見てたよ。連さんも里君もかっこよかった!」
授業終了後、莉那がまずそう言ってくれた。学年で一番可愛いと評判の彼女に言われて、サトは舞い上がっていた。連は普段どおり「ありがとう」の一言だ。
それから彼女は目に入ってきたいつもの睨みあいに割り込んだ。
「海君、黒哉君。二人のコンビネーションに、皆見とれてたよ。とっても素敵だった!」
海と黒哉はきょとんとして、莉那を見た。
それから声を合わせて、叫んだ。
「コンビじゃない!」
そのタイミング、口調、全てが綺麗に揃っていた。
「真似すんな」
「そっちこそ」
ぎゃいぎゃいと不毛な争いは続く。同じタイミングで罵り、連やサトに意見を求める。それがあまりに面白くて、とうとう連とサト、莉那は腹を抱えて笑い出した。
「もう、なんなんだよー……
「突然笑い出すんじゃねーよ」
喧嘩コンビはベストコンビ。そのやりとりは天然のコントだ。
「連さん、笑わないでくださいよ」
「いや、すまない。あまりに息が合っていたもので。やっぱり海と黒哉は仲が良いな」
「良くねーって」
どれだけ否定しても、離れはしないのだから仕方がない。結局のところ、彼らは良き友人たちなのだ。