「お兄ちゃん、見て! さっちゃんと一緒に、お守り作ったの!」
妹が、手作りのお守りを嬉しそうに見せてくる。手先が器用な妹は刺繍が得意で、こまごまとしたものも上手に作り上げるのだ。
「このお守りどうすんの? 俺の?」
「ううん、やっこちゃんの。剣道の大会があるから勝ってほしくて」
しかし、兄より親友の方が大事らしい。俺の大会のときには、とうとうお守りなんて作ってくれなかった。
妹は二歳年下で、今年から女子校に通っている。校風に合ったお淑やかな振る舞い、上品な笑顔。学校の制服がよく似合っている。俺の後輩達をはじめとする他校の生徒からは、可愛いと評判だ。兄としては大変複雑な心境である。
「やっこちゃんになら、俺が渡しておこうか? 秋公経由で確実に届けられるぞ」
「あ、さっき礼高まで渡しにいく約束したから。お兄ちゃんの手は煩わせませんよ」
「え、うち来んの? 変な男に捕まるなよ」
「それはないよー。何かあったら、やっこちゃんが助けてくれるから大丈夫」
しかも妹自身は完全に油断している。その親友だって、町の剣道場で最強とは言われていたけれど、女の子じゃないか。兄は大変心配だ。うちの学校の男共だって、女子校の生徒には憧れてるんだぞ。俺だって一時期は憧れたんだ、間違いない。
「結衣香、やっぱり俺が預かるよ。うちの学校に来るのは危ない」
「お兄ちゃんは自分の通う学校をなんだと思ってるの……。とにかく、もう約束しちゃったから、行くのは決まってるの。変な心配はいらないよ」
妹本人も、俺の友人たちも、俺が過保護だという。しかたないだろう、妹は可愛いのだ。何かあってはいけないので、せめて来るなら俺に連絡してほしい。
「じゃあ来る前にメール……」
「しーつーこーいー! お兄ちゃんって本当に過保護!」
あまりにかまいすぎたのか、妹は怒ってしまった。こうなってしまっては、もう引き下がるより他にない。可愛い妹に嫌われることが、一番辛い。
俺は仕方なく黙り、けれどもやはり心配なのは変わらないので、あとで秋公にメールをしておこうと思った。妹の親友は、あいつの従妹だ。できるだけ早く妹と合流してもらうよう頼みたいと、言っておこう。
「……お兄ちゃん、落ち込んじゃった?」
妹が俺の顔を覗きこんでくる。考えていることを覚られないように目を逸らし、平気なふりをした。
「いいや、俺がしつこくしすぎた。ごめん」
「うん。お兄ちゃんが心配してくれるのは嬉しいけど、わたしだってもう高校生なんだから」
「そうだな……」
どれだけ育ったって、妹であることには変わりない。この先もずっと、結衣香は俺の唯一の妹だ。だけど、いつまでも子供ではないんだな。
「お兄ちゃん。受験前には、お兄ちゃんのお守りも作ってあげるね」
「マジで?」
「うん」
こいつは一丁前に、兄を気遣うこともできるようになったんだ。
俺のほうが、そろそろ妹離れしなくちゃな。