イタリアンレストランでパスタを巻きながらお喋り。なんてお洒落なディナータイムなんでしょう。
でも、話している内容は、あんまり優雅じゃなかったりする。
「彼氏と別れた」
凪が発した第一声に、わたしは思わず「はあ?」と返した。桜ちゃんも目をまんまるにして、フォークを持つ手を止めている。
「だってまだ二週間くらいじゃ……」
そう、たしかそれくらい。凪が「彼氏できたー」と報告してきてから、それほど日数が経っていないはず。けれどもそのときの幸せそうな表情はどこへいったのか、彼女は不機嫌そうに言った。
「そうなんだけどさ、食事の仕方に耐えられなかった。無駄に音は立てるし、そこら中に食べこぼすし、生理的に無理」
「凪ちゃんが振ったの?」
「ううん、注意したら振られた。そんな細かいことを気にする人とはやっていけないってさ」
自棄になったように、凪はワインをぐいっと飲み干した。おいおい、わたしはその飲み方もどうかと思うよ。
「なんであたしが振られなくちゃならないのよー! 納得いかないー!」
叫ぶな叫ぶな。周りのお客さん、びっくりしてるから。
「落ち着いて、凪ちゃん。そんな人とは別れて良かったのよ。また新しい出会いがあると思うわ」
「ありがとう、桜……。それに比べて亜子ときたら、慰めの言葉ひとつかけてくれないわけ?」
「ごめん、凪がうるさかったもので」
「う、それはこっちが悪かった。せっかくのお洒落ディナーなのに……」
言えばわかる凪と、言ったら逆ギレする彼か。たしかに合わなかったんだろうな。彼女のことだろうから、もっとしっかりした素敵な人を捕まえられるんじゃないか。
……と、わたしが言ってもしかたがないので、この役目は桜ちゃんに任せることにする。しばらく桜ちゃんが凪をなだめるのを見ながら、わたしはもくもくと食事を続けた。
「でさ、亜子は? 彼氏と別れる予定ないの?」
やがて落ち着いたらしい凪が、こちらへ話を振ってきた。言うと思ったよ。
「ないよ」
「だよね。……っておい、もうそんなに食べたの?」
「凪が愚痴ってるあいだにね」
大丈夫だよ、凪。食べたら忘れるよ。あんたのいうとおり、せっかくのディナーなんだからさ。
「私も食べちゃおっと。凪ちゃん、デザートもあるわよ」
「そうだね、とりあえず今は食べる。……うん、美味しい!」
食事が終わったらわたしの彼氏が迎えに来ることは、内緒にしておこう。