ぱらぱらと降り続く秋雨を、教室の窓から見る。小テストを解き終えて暇になった時間を、そうして潰す。シャープペンシルの先と机がぶつかるコツコツという音が、無音の景色と重なった。
曇って暗い空の下には、妙に鮮やかな赤や黄色の山がある。初めてこの町で迎える秋は、どんなに天気が悪くても「いいな」と思えた。地元は高いビルと集合住宅が並んでいて、曇りや雨の日は影しかない。自然の景色を見られるのは、そうしようと思ってでかけたときくらいだった。
そんなことを考えていたら、授業終了のチャイムがなった。それと同時に小テストが回収され、生徒達は席をたつ。それぞれの仲の良い友人と共に、休み時間を過ごすのだ。
「アキ、授業中ぼーっとしてただろ」
「よく外見てるよな、秋公。そんなにこの辺の景色が珍しいのか?」
友人である入江新と志野原飛鳥は、先ほどの様子を見ていたらしい。秋公は少しだけ恥ずかしくなって、俯きながら答えた。
「雨が降ってても、山って綺麗なんだなって思って」
「へえ、やっぱ都会っ子は着眼点違うのな。俺なんて見慣れちゃったから、いちいちそんなこと考えないや」
飛鳥はこの町で生まれ育ったせいか、山をわざわざ眺めることはあまりないらしい。秋公にとってのビル群と同じなのだろう。
「シノはそうかもしれないけど、オレはわかるな。最初の一年は、この町の四季に感動したよ」
一方、新は中学生の頃に都会から引っ越してきたという。そのせいか、秋公がこの町に感じることを、よくわかってくれるのだった。
「飛鳥が門市に遊びに行って興奮するのと、そう変わらないよ」
「いや、都会と山は別だろ」
「感覚としては似てると思う。シノにはわからないかー」
「黙れよ都会っ子め」
新と飛鳥が言い合いを始めたところで、秋公は再び外を見た。雨は相変わらず降り続いていて、山は鮮やかに色づいている。ここに来なければ見られなかった景色にうっとりしていると、「また外見てる」と二人の声が重なる。
「アキはここに来て一年目な上に、ロマンチストだからな」
「俺たち二人より、ずっと変わってるかも。歴史愛好会だっけ? あれにも入るし……
「うん、面白いよ。この町の景色も、歴史も。それから」
一呼吸置いて、秋公は二人の顔をじっと見た。彼らと話せるのも、この町に来たからだ。たった半年で、この町が好きになっていた。
「この町の人も、みんな素晴らしいと思う。来て良かった」
そもそもは、難関高校の受験に失敗したからやってきた町だ。地元にいたくなくて、逃げるようにここへ来た。けれどもそれは、失敗なんかではなかった。結果的に、多くのものに恵まれたのだから。
……秋公、お前さ」
「そういう恥ずかしいことを平気で言うよな」
「タラシだ、タラシ。そうやって女子を口説いてるんだろ」
「オレの彼女は口説くなよ」
口々に言う友人達の顔が赤かった。これで仕返しができたなと思うと、秋公は少し嬉しかった。
そんな、自分の名前の季節。