水無月呉服店が再び営業を再開し、美和は鎮守の森暮らしから、人間たちの町へと戻った。ほんの数日店が開いていなかっただけなのに、シャッターを開けると見えるガラスに金の文字の入った入口は随分と久しぶりに見たような気がしたし、父と母が店に戻って仕事を始めるのは、なんだか何年も時をこえて、ようやく見られた光景のようだった。
また、美和の店番が始まる。弟がいないから本当に店先に立っているだけだし、誰も美和の存在に気づかないが、ここにいて人の出入りを見てこその自分なのだということを再確認できた。
美和は人鬼だ。人間の魂が鬼となる過程の、中途半端な存在だ。けれどもその考えは鬼よりも人間に近く、まだまだ鬼には成れないなと思い知らされる。それが全然、悔しくない。
鎮守の森で鬼に成る修行をしていた数日のあいだ、美和は鬼に関して多くのことを学んだ。そして、鬼と交流を重ねてきた。呪いは背負わずとも、気力を失っている鬼たちに声をかけ、ほんの少しだが立ち直らせることもできた。
けれどもやはり、美和の根幹は人間の生活にある。鬼とともに暮らす日は、いつかきっと訪れるのだろうけれど、当分はこのままでいいかもしれないとまた思い始めていた。
美和自身が、鬼の在り方というものに、簡単には納得ができなくなってきた、ということもある。
鬼がいることは本当に正しいことなのか。人間に過干渉することが許されないというのなら、なぜこの町に存在し、力を振い続けているのか。死んでまで鬼になって人間を守ろうとする者もあれば、悲しみや苦しみを抱え込んだ末に爆発させ、呪いをもって他者に危害を加える者もあるのはなぜなのだろうか。
この疑問の答えを見出せなければ、美和は鬼に成ることができない。成れたとしても、自分の存在を悩み続けるだろう。
だが納得するためには、人間の生活にとけこんでしまうのではなく、鬼として鬼を知らなければならないということも、美和は理解している。理解しているからこそ、無謀な賭けに出ようとしていた。
礼陣には、古くから開いている剣道場がある。心道館というその場所は、代々進道家が継ぎ、守ってきた場所だ。剣道少年団に所属する小中学生が集まるので、子供を第一に守る鬼たちにとっても重要な所なのだった。
美和も弟が少年団に所属していた頃は、よくついてきていた。弟が成長していくのを見るのも、他の子供たちが稽古に励んでいるのを見るのも、子供たちを見るために集まってきた鬼たちと話すのも好きだった。ここは美和にとって、あらゆる情報を得られる場だった。
しかし一方で、現在の心道館は、鬼たちが恐れる場所でもあった。正確には道場と繋がっている母屋がそうなのだが、多くの鬼たちが近づこうとしない部屋がある。
道場から母屋へ繋がる廊下を渡ったところの、庭に面して並ぶ部屋の一つ。そこには強力な呪い鬼がいると、鬼の誰もが知っていた。その呪い鬼はあまりにも呪いが強すぎるために、本物の神であるところの大鬼――神社に住んでいるため、人間たちからは神主と呼ばれている――でも、祓うことのできない存在なのだという。
礼陣の町全体を呪うほどに強い力を持ったその鬼には、名前がある。通常、鬼は個々の名前を持たないのだが、彼女には特別に呼称があった。――その名を、「葵鬼」という。
町を丸ごと憎むほどの何があったのか、礼陣を恨みながら、どうして彼女は鬼として存在しているのか、美和は知りたくなった。今の美和には、それを知ることができるだけの力がある。数日の鎮守の森での修業は、美和に絶大な効果をもたらしていた。
本来結界の閉じ目であるところの扉を、美和は通り抜けることができる。それも、誰にも気づかれずに。正確にはいかなる人間にも気取られずに、といったところだが、そうかわりはない。
美和はこのささやかながらも頼りにできそうな力をもって、進道家に単身で乗り込もうとしていた。
決行は夜。鬼たちも寝静まる頃、進道家の玄関を抜け、葵鬼のいるという部屋に入る。何が起こるかわからないが、少しでも葵鬼と話ができればそれでいいと思っていた。
それが甘い考えだとは、まだ美和は気づいていない。なんとかなると思ってしまうのは、美和の長所であったが、短所でもあるのだった。
水無月家の人々が寝静まり、どこかから犬の遠吠えが聞こえる。美和は他の土地を知らないが、これが田舎の夜であることは知っている。テレビでもラジオでもインターネットでも、情報は至るところから拾えるものだ。ただし美和ではそれを扱えないので、人間が使っている横から失敬することになる。
物騒な話もよく聞くが、人間に認識されず、ものに触れられない美和にはその多くが関係のない出来事だ。たとえば、今歩いているこの夜道で、いわゆる変質者が出たとしても、美和のことは見えないはずなので、被害に遭うことはまずない。難点があるとするなら、人間同士のいざこざに遭遇してしまっても、美和では何も手助けできないということだろうか。それを考えると、やはり鬼に成ったほうが得はある。
考え事をしながら商店街を抜け、かろうじて車が数台通っていく大通りを渡り、遠川地区の住宅街へ入っていく。東側は和通り、西側は洋通りと呼ばれるその地区の、東側へと向かう。
剣道場心道館、もとい進道家は、和通りの広い土地に大きく構えられている。
人間だったら不法侵入だ、とは今更だからいわない。けれどもやはり少しだけ気後れして、母屋の玄関からではなく、かつてよく出入りしていた道場側の玄関から屋内に乗り込んだ。いつも子供たちや鬼たちで賑わっている昼間の道場とは違い、夜のそこは月明かりにぼんやりと照らされた、寂しい場所だった。
道場の真ん中を突っ切っていくと、母屋へ続く戸がある。道場の子供たちは時折この向こうに招かれて、進道家でおやつを食べさせてもらったりしている。ものを食べることができない美和は、弟についてきて、美味しそうにぜんざいやかき氷などを頬張る子供たちをよく眺めていた。
今はぴったりしまっているその戸を、鬼の力でもってすり抜ける。ほんの少しだけ抵抗があったのは、この先に、呪い鬼が封じられている部屋があるからだろうか。
庭に面した廊下の、片側に並ぶ襖。その二つめで、ぴたりと足を止めた。ここだけ空気が違うのを、触覚のきかない美和でも感じ取ることができた。
家のものが子供たちに気にさせないようにしていた、勝手に戸を開けないようさりげなく目を光らせていた、そこが呪い鬼「葵」の封じられている部屋。美和は唾を飲み込んで、その戸に手を伸ばした。
『……きつい』
思わず呟くほどの抵抗が、指先から伝わってくる。根代鬼の部屋に入ったときよりも、もっとずっと強い封印が、ここには施されているのだ。締め付けるような感覚に耐えながら、腕をぐっと差し入れていく。そうして肘まで部屋の中に入ったとき、急に抵抗が緩んだ。いや、向こう側から引っ張られた。
『うわ……っ!』
するり、と体が襖を通り抜ける。視界に入る、壁際に詰められた小さな棚と、その上にある写真立て。それから部屋の真ん中に伏せておかれている、大きな竹製の籠。けれどもその様相が見えたのはほんの数秒で、室内は美和の体が全て入ると同時に、黒い煙に満たされた。
戸惑う隙を与えずに、美和の両肩を何者かが掴む。掴まれたところからじわじわと、虫が這うような不快さが広がった。実際に虫に這われたことはないけれど、きっとこんな感じなんだろう。
『ねえ、飛んで火にいる夏の虫、って言葉は知っている?』
煙の向こうから声がした。美和とそう変わらないくらいの年頃の、女の声だ。
『あなたみたいなのをそういうのよ。自分から喰われに来るなんて、なんて愚かな鬼なのかしら』
『喰われに……って』
そういえば、録が言っていた。葵鬼は「鬼を喰らう鬼」なのだと。もっと忠告の意味をよく考えるべきだったと遅い後悔をしながら、美和は後退ろうとした。しかし肩の手は放してくれそうもないし、足は黒い煙に取り巻かれて動かない。
しまったなあ、と思うと同時に、頭に浮かんだのは弟と過ごした日々のこと。もしかしてこれが走馬灯というやつなのか、鬼も走馬灯を見るのかと、頭の冷静な部分が感心していた。
ぞわぞわと這ってきた寒気が首元にのぼり、喉を絞め始める。ここまでかという言葉が頭をよぎったとき、煙の向こうから部屋の主が姿を現した。頭には長く冷えびえと白い二本のつのがあり、瞳は深い赤色をしている。黒髪はまっすぐで長く、顔と体つきは人間の娘のようだった。やはり美和とそう変わらない年頃に見える。
こちらを睨む表情は、剣道場の主と、幼い頃から知っているその息子に似ていた。主がこんな表情をしているのは、見たことがないけれど。
『……なんだ、人鬼じゃない。喰い損だわ』
少し意識が薄れてきたところで、そんな溜息交じりの台詞とともに、突然体が解放された。美和はその場にくずおれ、肩で息をする。どうしてか、助かったようだった。
理由を尋ねようとして顔をあげると、女性の姿をした鬼は、端正な顔でこちらを見下ろしていた。黒々とした負の気を纏ってはいるが、怒りも苦しみも見えない、無表情だ。彼女はこちらの考えを読んだかのように、口を開いた。
『人鬼なんか喰っても、足しにならないのよ。喰うのに力を使うだけ損なの。半分がまだ人なのがいけないんだわ』
『……つまり、私を喰わないってこと?』
『力を使って喰うだけの価値がないって言ってるのよ』
美和がやっと発した言葉に、彼女――葵鬼は、意外にもちゃんと答えてくれた。最悪の呪い鬼と名高いこの鬼とも、会話は可能なのだとわかった瞬間、美和は頬を緩ませていた。さっきまで、殺されかけていたのに。
『なに、あなた。にやにやして気持ち悪いわね』
『あはは……自分でもそう思う。でも、なんかね、嬉しくなっちゃって。呪い鬼とだって、コミュニケーションとれるんじゃない』
『……変な人鬼ね。気持ち悪いからさっさと出ていきなさいよ。見逃してやるんだから、ほら』
しっしっと羽虫でも追い払うような仕草は、しかし良家のお嬢さんらしく優雅なものだった。わずかに眉を顰めたその顔もきれいで、気を纏っていなければ普通の鬼と何ら変わりがない。これが誰もが恐れる、大鬼様でも封じることしかできない、強い呪いをもった鬼だとは。実際に殺されかけて危険はわかったが、それでも美和は彼女を嫌いになれないだろうと確信した。
『葵さん、挨拶がまだだったよね。こんばんは』
『出ていけって言ったでしょう』
あいにく、美和は弟よりも押しが強い。弱虫だった弟を鍛え上げるくらいには、自分は強いと思っている。ここにきて、なぜか妙な自信が湧いていた。
『私、美和っていうの。葵さんと話がしたくて、こんな時間だけどお邪魔しちゃったんだ』
『気安く呼ばないで。美和だかなんだか知らないしどうでもいいけれど、さっさと消えて、二度とここに来ないでちょうだい。私、礼陣のものは人も鬼も大嫌いなの』
『知ってる。礼陣そのものを呪って、呪い鬼になったって聞いた。それがあまりに強力だから、大鬼様でさえ封じることしかできないって』
口を閉じずにここに留まっていると、葵は今度こそ心底鬱陶しそうな顔をして、片手で黒い煙を操った。葵の手の動きに合わせて、煙は美和の体を取り巻き、再び締め上げる。そして美和の体を戸口へと追いやった。
『帰れって何度言わせるの』
『だって、葵さんと話がしたくて来たのに』
『こっちの都合も考えずに、勝手なことを言わないでほしいのだけど』
封じられている鬼は、襖を開けたり通したりすることまではできないらしい。美和の体は閉じられた襖の前に捨てられた。めげずに再び葵に近づこうとすると、黒い煙に進路を塞がれてしまった。向こうには、美和と話をする意思はないようだ。
弟ならここで諦めただろうな、と美和は思う。おとなしく引き下がって、次の機を待つのだろうと。けれども美和は諦めが悪いのだ。視界と進路を隠されても、声は届くだろうと、煙の壁の向こうに話しかけ続けた。人鬼は人間に気配を察されないから、どれだけ大声を出しても平気なのが便利だ。
『葵さん。葵さんはどうしてここに封じられたの? どうして礼陣を嫌いになったの?』
返事はない。答える必要はないと思われているのだろうと、美和でもわかる。わかっていて、なおも続けた。
『牡丹……子鬼があなたを呪い鬼にしたって、本当なの?』
そう問いを投げた瞬間、煙の壁が動いた。少し薄くなったようだ。もう一度進めるだろうかと立ち上がったのと、壁にぽっかりと穴が開いたのは同時だった。穴の向こう、遠いところに――この部屋はそんなに広くはないはずなのに――葵の姿が見えた。俯いているので、どんな表情をしているのかまではわからなかったが、発した声は先ほどよりも静かで、しかし、鋭かった。
『あの子鬼と仲が良いようね』
鬼は普通、個々の名前を持たない。だが、「鬼」や「子鬼」と口にするだけで、誰のことを言っているのかはすぐにわかる。葵が言っているのは、たしかに牡丹のことだと、美和にも伝わった。
『仲良しだよ。私が人鬼になって、最初に言葉を交わした鬼だもの』
『そう。やたらと人にかまいたがるあの迷惑な性格は、変わってないのね』
『変わってないっていっても、もう十四年も前のことだけど』
葵が応えてくれたことに気が緩んで、余計なことまで喋ってしまったことを、美和は一瞬後悔した。だが、葵はそれを流さなかった。
『十四年? あなた、そんなに長く人鬼のままなの? よく消えずにいたわね』
『普通は消えるの?』
『消えるわ。人に認められない鬼は力を失うから。……あなたが今まで存在してこられたのは、やっぱり、あの子鬼が絡んだせいかしら』
それだけではない、と美和は思った。自分には弟がいた。美和を見ることのできる、美和を認めてくれる、唯一無二の人間がいた。きっと彼が美和をこの世に留めたのだ。
もしかすると、弟が町からいなくなった今、美和は消えてしまう間際にあったのかもしれない。それを牡丹が「修行」というかたちで救ったのだと考えると、合点がいく。心の中で牡丹に礼を言おうとしたら、それに重ねて葵が低い声で言った。
『どこまでも忌々しい。さっさと魂を解放してやればいいものを、土地に縛りつけようとするなんて。あの子鬼も、大鬼も、よほど仲間を増やすのに必死なのね』
ああ、そうだ。そのことが引っかかっていたのだった。美和はここに来た理由を、やっと思い出した。礼陣という土地で、人間の魂が鬼となるのはなぜなのか。鬼はなぜ存在しているのか。そのヒントを掴みたかったのだ。
牡丹と関わりがあるという、葵から情報を得たかったのだ。
『葵さんが呪い鬼になったのは、子鬼が関係してるの?』
もう一度問うと、葵はゆっくりと顔をあげ、その眼光で美和を刺した。思わず竦みあがった美和を、葵は無表情のまま鼻で笑い、そうして言葉を紡いだ。
『そうね、子鬼のせいで呪い鬼になったわよ。……こう答えれば満足かしら』
『それはどういった経緯で……』
『初対面のあなたに、そこまで話す必要がある?』
知りたいけれど、葵の言うことはもっともだった。美和はこれ以上を訊くのを諦め、けれども別の疑問をぶつけることにした。
『葵さんが鬼を、その、喰らうのは、鬼が嫌いだから?』
『これまた唐突な質問ね。本当は不味いものなんて喰らいたくないのだけど、鬼の数を減らすにはそれが一番手っ取り早いのよ。私の力で負の感情を増幅させて、鬼連中を呪い鬼かそれに限りなく近い状態にして、取り込みやすくしてから喰らうの。こうすると私の呪いも強くなって、鬼封じのときに大鬼を困らせてやることもできる』
思ったよりずっと詳しく答えてくれたので、美和は思わず感嘆の声を漏らした。すると葵は呆れたように息を吐いて、また煙の壁をつくり始めた。
『あなたねえ……自分が喰われなかったからって油断してるの? 暢気に私の空間の中に居続けたら、たとえ人鬼でも気分が悪くなると思うけれど』
『葵さんこそ、自分で教えてもいいと判断したことはよく話してくれますね』
美和の返しが葵の気に障ったのか、煙の壁は急速に復活した。けれど、向こうから葵の声は聞こえた。
『……誰かと話すのは、年に一回くらいだから。あなたみたいな変なお客は来ないし、来ても喰らうか殺すかしてしまう。つい話しすぎたのね』
鬼たちは葵を恐れて、この部屋を訪れない。葵によって引き込まれた鬼は、彼女に喰われる運命だ。大鬼は葵を封じに来るだけだし、この家の人間はたぶん、葵に触れたがっていない。美和は久方ぶりの話し相手だったのだろう。
本当は、葵だって誰かと話がしたいのではないか。呪い鬼とはいえ、この世に留まって、人の営みを知っているのだし。邪険にはされたが、話を選べばきちんと返してくれるのだから、まったく独りでいたいわけではないのだろうと、美和は勝手に考える。そんな彼女を、性分として放っておけない。
『葵さん、また話そうよ。私、何度だって通うから』
『来なくていいわよ、面倒くさい。……あなた、自分の行動がいつでも正しいと思ったら大間違いよ』
そうは言うけれど、美和にはどうしても、葵が好んで孤独を選んでいるとは思えないのだ。
きちんと『またね』と『おやすみなさい』を言って、美和は葵の部屋を辞してきた。返事はなかったが、『もう来るな』とも言われなかった。言い飽きたのかもしれない。
ともかく美和は、また葵を尋ねるつもりでいた。人鬼でいる限りは、無理に喰われるということもなさそうだし。――けれども、喰われそうになったときは、心の底から怖いと思った。あれが呪い鬼というものなのだ。誰もが恐れ、その存在を隠したがりもする、負を纏った存在。でも。
『……葵さんだって、痛みを抱えた鬼なんだから。それを少しでも軽くしてあげられないかな』
押しつけがましいと怒られるかもしれない。本当に怒らせたら、今度こそ喰われるかもしれない。それでも話したいと思うのは、結局、葵のためではなく、美和自身のためだ。
牡丹を、鬼たちを、葵を助けたいというのは言い訳で、美和がただ自分の存在理由を見出したいという、それだけなのだろうと、わからないわけではない。
――自分の行動がいつでも正しいと思ったら大間違いよ。
葵の言葉はそのとおりだ。美和の思う正しさは、自己満足に過ぎない。相手のことを思いやらない「正しさ」は、ただ傷を増やすだけだ。十四年も人間と鬼を見ていれば、それくらいは理解できる。
頭では理解できても、行動が伴わなければ、意味がないことも。
『わかってるよ』
呟いて見上げた空は白み始めていた。この町の人にとって、新しい一日が始まる。
葵はそれすらも憎いのだろうか。美和はもう、それが知りたいと思っていた。わかってないな、と自嘲して、商店街の自分の家を目指した。