正月休み明けの学校は、「久しぶり」の飛び交う場所。わたしと桜ちゃんは休み中にも会っていたし、とうに年始の挨拶も済ませていたのだけれど、実家に帰っていた凪の顔を見るのはたしかに久しぶりだった。
「今年もよろしくー」
そう言った彼女はなんだか機嫌が良さそうだった。新しい彼氏でもできたのだろうか。
「こちらこそよろしくね、凪ちゃん」
「凪、よろしく。留年しないといいね」
「新年早々失礼だな、亜子は。桜とだけよろしくしよう」
からかってみると、いつもどおりの返事があったけれど、やっぱり上機嫌だった。お弁当を広げながら、それとなく探ってみる。
「良いことでもあった?」
「まあね。聞きたい?」
「別に」
「聞きなさいよ」
年が明けても、相変わらず凪もわたしもめんどくさいやつだ。桜ちゃんに苦笑されながら、わたしは凪の話を聞くことにした。
どうやら、休み中に同窓会があったらしい。そこで久しぶりに会った男子と盛り上がり、現在は頻繁にメールを交わしているのだとか。まだ付き合ってはいないらしいけれど、思った通り原因は男だった。
「前はお互い気にも留めてなかったんだけど。改めて会って話したら、結構楽しいんだよね。よく見るとイケメンだったし。これが写メなんだけど」
頼んでもいないのに、凪は携帯電話に保存されていた画像を見せてくれた。……どうやら、わたしの感覚と凪の感覚はかけ離れているらしく、そこに「イケメン」がいるとは思えなかった。
「チャラそう……
「チャラくないって」
「たしかに亜子ちゃんの好みじゃないかも。でも凪ちゃんは、かっこいいと思うのね?」
「ううん、かっこいい……? それともちょっと違うような。イケメンはイケメンなんだよね」
凪が何をもってして彼を「イケメン」としているのかはよくわからないけれど、彼女がいいならかまわない。このままうまくいってくれることを祈ろう。そうすれば、今年の凪はいつでも上機嫌だ。
盛り上がった内容は好きなバンドについてらしく、しばらく凪による彼候補紹介とついでのお気に入りバンド紹介が続いた。わたしはそれを半分聞いて半分流し、お弁当箱を空にする。次の講義はなんだっけ、などと考えながら。
「そういえば、結局去年は、亜子の彼氏見てないんだよね。今年は紹介しなさいよ」
……今の話でどうしてそうなる?」
どこか重要な部分を聞き逃しただろうか。いつの間にか、そんな話になっていた。
凪は去年、わたしに彼氏がいることを知ってから、ずっと「亜子の彼氏見たい」と言っていた。けれども見ても面白いものではないと思うので、あるいは万が一面白がられても困るので、わたしは適当に聞き流して知らないふりをしてきた。
でも、凪からすれば気になるのだろう。桜ちゃんは知っているわけだし。一人だけ知らないというのが、嫌なのかもしれない。
「亜子ちゃんの彼は働いてるから、難しいと思うけれど……
「写メだけでいいよ。ね、ちょっとでいいから。こっちも見せたんだからさ」
桜ちゃんの助け舟には乗り損ねてしまった。別に凪の彼(候補)を見たいなんて言ってないんだけど、と思いながら、わたしは渋々と携帯電話の画像フォルダを開いた。
「はい、凪」
「おや、年が明けたらやけに素直だこと。どれどれ……
わたしの手から携帯電話を受けとり、凪は画面を見始める。けれども次第に首を傾げ、とうとう「何これ」と呟いた。
「彼氏は?」
「画像なんてないよ。いちいち撮ってないし。……あ、それは桜ちゃんちの犬。可愛いよね」
「可愛いけど……
画像がないのは本当だし、会わせる気もない。いつか偶然機会ができたら、そのときは諦めてやろう。
「ちぇー、今年も亜子は相変わらずか」
「だって、見せる必要ないでしょ。ねえ、桜ちゃん」
「そうねえ。会ってみたいなら、この町を常に歩き回るしかないかな。そうすればいつかは見られるかも」
「いつかはっていつよ。だって、隣町にいるんでしょ」
今年もこんなふうに過ぎていくんだろう。他愛もない話をして、お互いからかって。凪の愚痴に付き合いつつ、わたしがそれを聞き流し、桜ちゃんが宥めてくれる。そんな関係を、緩やかに。