ナゴミ:どうも
mas:
おぉ、ナゴミさんだ。今晩はっす。
ナゴミ:masさん一人?
mas:
そうそう、ぼっちですw
ナゴミ:いつものお友達さんいないの?
mas:
あいつ今日デートですよ。
ナゴミ:そうなんだ
ナゴミ:masさんは?相手いないの?
mas:
俺はいないっす。ナゴミさんは?
ナゴミ:どっちだと思う?
mas:
ずるいっすねwwじゃあ、いる。
ナゴミ:理由は?
mas:
そこまで聞くか?wなんかモテそうだから。
mas:
名前の通り和み系で。
ナゴミ:そう思うの?モテないよ 相手はいるけど
mas:
ほらやっぱり。
ナゴミ:ちょっと待って 電話
mas:
はいよ。


…電話、彼氏だと思うか?」
メッセージの止まった画面から目をはなし、傍らの少女に問う。
彼女は先ほど開封したばかりのチーズを一気に頬張っているところだった。
したがって、今返事をすることはできない。
だから勝手に話を続けた。
「やっぱりいるよなー…。なんかちょっとショックだ
「ナゴミとかいう奴の"あばたー"? は男だぞ」
チーズを食べ終わったのか、少女が口を挟む。
確かに画面に表示されているキャラクターは、自分もナゴミも男性だ。
「いや、この人絶対女の子だと俺は思うね。だからチャット通じて付き合えたらとかバカな妄想してたんだけど…
暫く話をしていると、ナゴミは男のキャラクターを使っている女性ではないかと思うことが度々あった。
そこで彼は勝手な想像をしていた。おっとりした、しかし聡明な女性が、自分と会話をしてくれているのだと。
「でも、そんなのどうでもいいや。失恋したし…」
「ほう、これがしつれんか」
「そうだ。別に覚えなくていいぞ、チズ」
「きょうみないから覚えないぞ。それよりちーずくれ」


電話に出ると、騒がしくもホッとする声がした。
滅多に帰れない故郷を近くに感じさせてくれる、暖かい声。
「どうしたの? 急に」
「ちょっと愚痴りに。聞いてくれよ、桜がさー…」
愚痴といいながら、彼は自分のいない間に何が起こっているのかを教えてくれるのだ。
離れている期間の空白を埋めて、帰ってきたときに話についていけるようにしてくれている。
今日はどうやら、妹が恋人と出かけてしまったらしい。
「別にいいんだけどさ。相手は信頼できる奴だし」
「そうみたいだね。さっきから口調が嬉しそう」
「嬉しいけど寂しいんだよ…」
「あ、じゃあチャットルーム来る? 今ちょうど繋いでるんだけど」
「マジ? 行くかな」
彼が寂しいのは、妹のことだけではない。自惚れかもしれないが、きっと自分がいないからということもある。
自分も寂しいから、勝手にそう思う。
「それじゃ、チャットで」
「うん、後でね。流」
電話を切って、和人は再び画面に向かった。