A4サイズのファイルに印刷物を突っ込もうとした時、右手の中指の、ちょうど爪の下あたりを紙の縁にこすってしまった。
痛いというよりは、じんじんと痒い。
少し血が浮いてくるのを眺めていると、頭がぼーっとしてくる。
後になって、今日はついていない日だったんだと思った。

朝、寝坊したと思ったら時計が昨日の夜8時で止まっていただけだった。
もう少し寝られたのに、気がついたら全ての仕度を終えていた。
学校に行く途中で、車に泥をはねられた。

白い靴下に濁った点々。
学校に着いたら、上履きがなかった。

これはいつものこと。
廊下に設置してあるゴミ箱から靴を拾い上げ、埃を払う。
教室の前に立つと、談笑の声が聞こえる。戸を開けると止む。

ひそひそと噂話。毎朝飽きないものだ。
ホームルームが始まってから遅刻した大助が到着。

指導のために一時限目の前の短時間、教室から消えた。
その間にまた噂。

彼女らはわたしと仲の良い人がいない時を選ぶ。
在は欠席。

どうやら熱が出たらしい。風邪が流行っている。
晴れていれば昼休みは屋上に行くのに、今日は四時限あたりから雨が降り出した。
大助はまた先生に呼ばれている。

その間にわたしのお弁当はひっくり返された。
心のこもっていない「ごめんね」を聞きながら、出来るだけ早く片付けて床を拭く。

途中、手を踏まれた。
六時限に指を切る。
放課後、教室の掃除を任された。

大助はバイトがあるから先に帰った。

終わったら在のお見舞いにでも行こう。
帰り道、ついてなかったなとやっと思った。

靴下の泥と指の切り傷だけを笑い話にして、在に語った。
「災難でしたね」と、絆創膏をくれた。
「黒哉、ちゃんとお昼ご飯食べたかな」
わたしが呟くと、在は申し訳なさそうに俯いた。失言。
黒哉のお弁当は在が持って行っている。

だから今日、黒哉は昼食がなかったことになる。

多分売店で買ったとは思うけれど。
「雨、酷くなってきましたね」
「うん
部屋に響くごうごうという音が不安をかきたてる。
中指がじわっと痛んだ。

帰ったら力が抜けた。
ふらふらと体温計を取りにいって、布団に包まった。
38
度。明日学校を休んだら、在は風邪をうつしたと自分を責めてしまうだろうか。

ちょっと涙が出た。