ナースさんたちが春に計画してくれた中庭でお花見は、私にとっては現在まで継続するとても幸せな出来事の始まりだった。
正確にはナースさんの一人が、お弁当を忘れてくれたことが…なんだけど。
晴れた日に庭に出るようにしてから、少し顔色がよくなったとお医者さんに言われた。
その分雨の日の憂鬱さには耐えられないだろうなと、5月の終わりに考えていた。
窓を叩く横殴りの雨。せっかちな台風が来たんじゃないかと思うほどの豪雨。
誰も外に出たくないような日だから、当然あの人には会えないだろうなと思った。
だけど、なんて捻くれ者。
酷い天気なのに遠回りをして、ここまでびしょぬれで来てくれた。
「ばか」
と私が言えば
「うるせー」
と短い答え。
「これ、野下桜から」
彼から受け取るノートは乾いていた。
これを守るために鞄を抱えてきたようだ。
「桜先輩にありがとうって伝えておいて」
「自分で言え」
うん、いつかね。
「ありがとう」
「だから」
「違うよ、これは黒哉君に」
言える時に言わないと、ね。
じゃないと言いそびれてしまうから。
私は雨の日も嫌いじゃなくなった。