眉間にしわを寄せた濡露が通ったので、ミトシはすぐに何か大変なことがあったのだと覚った。
彼女が悩むとすれば、第二世界の兎少女のことか、時渡の少女のことだろう。
どちらがどうなっても、ミトシにも関係してしまう。
「濡露、どうしたの?」
「あらミトシ、丁度良かった」
呼び止めると、濡露の表情はいくらか冷静さを取り戻したようだった。
やはりミトシが関わっていること――兎少女か、時渡か――を考えていたようだ。
「限時は今、いるかしら?」
「兄様?」
「アイツの力を借りないと、解決できそうにないのよ」
ミトシより上位の時を司る者に頼る必要がある、ということはよほどの事態だ。ミトシは固唾を呑む。
「何があったの?」
「さっきとわこをうさこのところに行かせたの。そうしたら男爵に見つかっちゃったみたいでね…」
男爵は兎少女を軟禁している人物だ。彼から兎少女を救い出すことが、濡露の目的の一つだった。
その凶悪人物に時渡が見つかったとなれば、彼女もまた捕まってしまう可能性がある。
「そ、それで…とわこは?」
「あの子は無事。でも慌てて渡った所為で、近くにいた無関係の子を巻き込んじゃったみたいなのよ」
最悪の事態は回避されたようだ。しかし、無関係のものが巻き込まれたとなれば、それもまた重大だ。
「その子も渡っちゃったの?」
「別の世界にね…しかも、時間と空間の軸がずれたの。アタシやアンタじゃ助けに行けないわ」
「それで兄様に…」
濡露やミトシは、まだそれほど位が高くはないので、時間と空間の軸がずれては時渡ができない。
今回のケースでは、とわこなどは論外だ。
しかし、
「兄様、しばらくいないみたい…気まぐれだからいつ帰ってくるか…」
「相変わらず、肝心な時に役に立たない時神ね。仕方ないわ、様子を見ましょう」
「…大丈夫なの?」
「多分ね。飛ばされた場所はとわこの属する世界の、2年後の未来だから」
「第三世界に第二世界の人が行ったら、ちょっと問題じゃない?」
「大問題よ。…無事ならいいけれど」
この事故を解決する手立ては、今はない。
巻き込まれた者の無事を祈るしか、今はできなかった。
さて、不慮の事故で全く別の世界に飛ばされてしまった少女は、運良く民家に入り込むことができた。
そして、彼に出会う。
「君はなんて名前?」
「ねずみおんな」
「そのまんまじゃねーか」