わたしを呼ぶ、可愛らしい高音に振り向く。
梓ちゃんがケータイを差し出しながら、「これこれ」と言った。
「空子ちゃん、これ知ってる?」
画面には、最近サービスが始まったサイトが映し出されていた。たしか、情報やそのほか取るに足らないことを少ない文字数で書き込み、多くの人と共有できるものだ。
新しい話題には疎いわたしが、なぜこのことを知っているのかというと。
「浦家君が言ってた」
「あー、あいつ詳しそう。知ってるなら話は早いね」
梓ちゃんは画面をわたしに見せたまま、ケータイを操作して、ある一文が表示されたところで止めた。
「これ。うちのクラスの奴っぽい」
「そうなの?」
「書いてること見たらすぐわかるよ」
どうやらこの文を投稿した人は、自分の個人情報や、クラスでのできごとを詳細に書いているらしい。だから問題の部分も、おそらく真実なのだろう。
「怖いよねぇ、近くに犯罪者がいるなんて」
梓ちゃんは笑いながらそう言った。
わたしは曖昧に頷きながら、表示をもう一度見る。
『いとこが万引きで店潰したみたい(>_<)
どんな表情をして見たらいいのか、わからなかった。

「よくもまあ、身内の恥を全世界に晒せるものだね」
梧君が例の投稿を見て、まず口にしたのはそれだった。
「これって拡散できるよね。これだけ堂々と情報をのせてるんだから、もっと広まっても平気なんだろう」
……拡散はやめてやれよ。学校全体が巻き込まれたら面倒だ」
ケータイを取り出した梧君に、新見君が言った。わたしもそれに頷いたけれど、梧君は笑って返した。
「制裁は必要だよ。自分の愚かさを認識できないなら、させてあげるのが親切だ」
彼は何の躊躇いもなく、自分のメッセージを投じた。
その瞬間、梓ちゃんが表情を引き攣らせたのが見えたけれど、彼女は何も言わなかった。
わたし達はいつだって、梧君には逆らえないのだ。

たった一言、【拡散希望】と入れただけで。梧君の投稿は瞬く間に広がった。
例の子はそこから姿を消し、新しいコミュニティに参加したらしい。でもまたすぐに居場所は無くなるだろう。
梧君は、どこまでも追いかける。その子が「思い知る」まで、ずっと。

その話を聞いた浦家君は、「趣味悪いな」と笑ってから、自分のアカウントを削除した。